初公開① ふたりが暮らしたあの家に、「おかえりなさい」
80 歳を超す大家さんと矢部太郎の出会いから別れまでを描いた名作フィクション『大家さんと僕』(新潮社、2017 年)。会場には、大家さんが来場者の「帰宅」をお出迎えするインスタレーションが登場します。来場者みずから作中の名場面の一部となって楽しむことができる、PLAY! MUSEUM ならではのユニークな鑑賞体験です。
また、展覧会のためにアクリル絵の具で制作した約100 点の描き下ろし作品のほか、大家さんが語る疎開の思い出や、ふたりならではの窓越しのコミュニケーションを描いた「ライトとおやき」の紙芝居を上映。
そして多くのひとびとの涙を誘った最終話『大家さんと僕 これから』の空飛ぶふたりも映像化されます。
ふたりが交わす最後のことば、別れの中にも光る大家さんのユーモアは、本展のハイライトのひとつです。
『大家さんと僕』(新潮社)2017年「ライトとおやき」より
「ふたり 矢部太郎展」のための描き下ろしアクリル画
初公開②「たろう」が「矢部太郎」になった日
絵本・紙芝居作家 やべみつのりを父に持つ矢部太郎はかつて、父の家族絵日記「たろうノート」の主人公「たろう(=ぼく)」でもありました。いつも家にいて、おやつは野山で調達、そしてたろうの友達と、まるで自分も子どものように全力で遊ぶ父。普通とはなんだか違って、ちょっと恥ずかしくて、でも、やっ
ぱり好き。父との時間はいつも創作に満ちて、やがて幼いたろうは父のすすめで「たろう新聞」をはじめとする作品づくりに、その手を動かし始めたのでした。
その半生をたどるように「たろうノート」「たろう新聞」の現物を初公開するほか、父子を現在の矢部が見つめ直し描いた『ぼくのお父さん』(新潮社、2021年)を紹介。当時親子で住んでいた、東村山市での暮らしぶりを体感する映像インスタレーションも展示します。子育ての迷いや老いに対する動揺、家族の在り方など、現代に生きる心を解きほぐす手がかりを、矢部家のひとびとが教えてくれます。
父の家族絵日記「たろうノート」
初公開③ 矢部作品の新境地
『大家さんと僕』、『ぼくのお父さん』に続いて矢部が描いたのは、出番を待つ動物園のトナカイが主人公の『楽屋のトナくん』(講談社、2022 年)、認知症患者と家族の日常を描く『マンガ ぼけ日和』(原案:長谷川嘉哉/かんき出版、2023 年)、3 月27 日に発売されたばかりの最新作『プレゼントでできている』(新潮社、2024年)。その観察眼は切れ味を増しながらも、穏やかな筆致から世界の真理に迫りゆく矢部の思索の旅は、作品の垣根を越え、脈々と続いています。
本展のために展示される実際の「プレゼント」には、実は作品本編には登場しない「番外編」も。どんなエピソードが紐解かれるかは、会場でのお楽しみです。
『楽屋のトナくん(1)』(講談社)2022年「はじめまして」より
『マンガ ぼけ日和』(かんき出版)2023年「お金盗ったでしょう?」より
『プレゼントでできている』(新潮社)2024年「捨てる」より
初公開④ 子どもたちと「宇宙の旅」へ
PLAY! といえば、美術館と遊び場からなる、大人も子どももとびきり楽しい場所。
今回はやべみつのり監修のもと、遊び場・PLAY! PARK(3階)で、子どもたちが作る「宇宙船」がなんとそのままPLAY! MUSEUM(2階)に展示されます。自分たちが作ったものが展覧会の仲間入り、なんて珍しいチャンス!新しい試みに期待が高まります。
ただし、制作日は「4月21日」……なんと、開幕3日前なのです。
「ふたり 矢部太郎展」の会場に着陸する宇宙船の完成、乞うご期待!
併設のSHOP、CAFE、PARK にも続く矢部太郎ワールド!
「おでかけ」に使う風呂敷、「おしゃべり」はカステラとほうじ茶をいただきながら、「おくりもの」にはおはぎのバースデーカードを。PLAY! SHOP では矢部太郎の漫画の空気感をそのままに、生活のシーンに合わせたグッズを多数用意しました。ふたりで使っても、ひとりで使っても、やさしい気持ちになれるアイテムたちです。本展描き下ろしの絵をあしらったグッズもお楽しみに。
またPLAY! CAFE では、昔懐かしい、レトロな喫茶店をイメージした限定メニューが並びます。ノスタルジックなムード漂うオムライスや、優しい大家さんをイメージしてマイルドに仕上げたカレープレートといった喫茶店らしいメニューはもちろん、『大家さんと僕』の印象的なシーンを再現したデザートも登場!矢部太郎展ならではの要素も見逃せません。
「ふたり 矢部太郎展」オリジナルグッズ
「ふたり 矢部太郎展」オリジナルグッズ「湯呑み」2,000円(税込予価)
「ふたり 矢部太郎展」オリジナルグッズ「おはぎポーチ」1,800円(税込予価)
「ふたり 矢部太郎展」カフェメニュー「はぴばすでい和菓子セット」1,350円(税込)
「ふたり 矢部太郎展」カフェメニュー「大家さんのカレー」1,650円(税込)
さらにPLAY! MUSEUM の上階、子どもの遊び場のPLAY! PARK でも続く矢部太郎ワールド。矢部さんの描く物語を追体験するように、漫画のワンシーンや台詞から着想を得たワークショップを開催します。
思わずクスッとしてしまうユーモアを交えながら、創作のよろこびをめいっぱい感じてみましょう。
PLAY! PARK「ふたり 矢部太郎展」関連ワークショップ「モコちゃんになる」
PLAY! PARK「ふたり 矢部太郎展」関連ワークショップ「ろうそく1本、バースデー◯◯」
PLAY! MUSEUM が想う――なぜ今、矢部太郎なのか。
かつて野球の本場・アメリカに渡った一人の日本人が安打の世界記録を打ち立て、メジャーリーグ史上最高のヒットメーカーとして旋風を巻き起こしたあの頃。これからの未来はずっと輝いて、何か大きな物語が広がっているように見えていました。
15年、20年が経った今、未曾有のウイルスによって世界は一変しました。コミュニケーションツールの過度な発達やAIの台頭とともに、生身の人間同士の語らいは損なわれ、そこにあるはずの人の本質も、画面の向こうへと隔たれてしまった。抱いていた期待や希望は充満する閉塞感で掻き消えて、いつの間にか物事は複雑化し、なんと生きづらい世の中になったことでしょうか。
誰もが「これでいいのだろうか」と、自分自身の小さな物語をじっと見つめ、思い悩んでいます。本当はあの時行きたかった場所があった。スーパーに並ぶ品々が、どれもちょっとずつ手が届かなくなった。あの時ああ言えたらよかった。会いたかったあの人も、今ではもう、会えなくなってしまった。……大人も子どもも、社会を変える力を持つ人も、何者でもない人も。小さなやるせなさを積み重ねて今日を生きています。
そんな暗闇の中、ささやかながらも力強い光をたたえて、私たちに毎日を生きるための手がかりを与えてくれる。矢部さんの漫画って、そんな存在なのではないでしょうか。難しい世の中で懸命に生きる人々を、うまくいかないことだって肯定してしまう、しなやかな優しさがそこにあります。
続いていく日々の中で、自分の命をどう使うのか。これからを生きていくための確かなメッセージを贈る、矢部さんとあなた「ふたり」の展覧会。PLAY! MUSEUM の「ふたり 矢部太郎展」は、そんな場でありたいと願っています。
展覧会概要
展覧会名 | 「ふたり 矢部太郎展」 |
会期 | 2024年4月24日(水)~7月7日(日) |
会場 | PLAY! MUSEUM(東京・立川) |
住所 | 〒190-0014 東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3 棟 2F |
電話 | 042-518-9625 |
開館時間 | 10時~17時(土日祝は18時まで/最終入場は閉館の30 分前まで) *会期中無休 *当日券で入場できます。 土日祝および混雑が予想される日は事前決済の日付指定券(オンラインチケット)がおすすめです |
ウェブサイト | https://play2020.jp/article/taro-yabe/ |
◯主催:PLAY! MUSEUM
◯制作協力:吉本興業
◯協力:新潮社、講談社、かんき出版